如月− seven broadcasts by ideo

如月− seven broadcasts

現代社会において国と国の境はなんなのだろうか、と昔から漠然とだがよく考えていた。国境があり、法の違いがあり、制度の違いがあり、国民は戸籍に登録され、定められた税制を受け入れる(無論外国籍の人間も納めているが)などのなんらかの義務があり、共同体の行政の中にいる。国には大抵は国語があり、公用語があり、国語教育があり、TVやラジオをつければ共通の言語での会話やアナウンスがなされることが多い。メディアの届く範囲でなんらかの共通した磁場のようなものが形成されている。反対に国境を軽く超えていくものはなんだろうか。交易による物や文化、人自体の移動も国家間で取り決められた制度の範囲内では容易な場合もある。昨年から米の価格の高騰が話題になっている。稲作文化は元々は明瞭な国境線などなき時代に大陸から伝播したもので、今では国の主食と呼ばれるものになり、輸入に頼るより国産が求められる。定着(土着)した食料品が国家や国民のアイデンティティともなる。流動と制限の中で、文化や風土が培われていき、その際に国家や国境が大きな囲いとしての影響力をもっている。制度内での国境間の移動ではなく、もっと即物的な侵犯もある。戦争や紛争による領土侵犯。異なる国家間や共同体間での領土紛争は今でも絶えない。違法に人が国を越えて移住することもある。物の密輸もある。短波等の見えない信号を海を越えて相互受信しメッセージを交わすことも技術的に可能になり、実際に行われていた。20世紀の終わりにはインターネットの時代に入り、より異なる国民同士の活発な情報の交換や交流がなされているだろう。一方で、国家でも団体でも個人でも、覇権を担うためには情報空間による言語操作や国境内や政党含む無数の小集団、また国境を越えたハックや政治的謀略が強い手段となる。フェイク含むニュース、陰謀論、プロパガンダ、主義主張、正義、悪、単純な嘘、デマ、炎上商法、コンサルによるマッチポンプ、切り取りによる見せ方、印象操作、政治力、信奉や崇拝、暴力や金や物や知的水準や生活水準や階層の誇示、インプレッション数、業界や界隈での影響力、人気、推し、イケメンにイケジョ、萌え、美声、エ口、右、左、保守、リベラル、なんでもよいが如何にして自らの陣営に動員させるかの“声”が国境を越えて、また国境の中で、SNS、チャット、企業、広告、政治団体、市民団体、もっと小さなグループの囲いの中でのエコーチェンバー、さまざまな形でネットには溢れている。ぼーっとそれらを眺めたり参与していると、最早後戻りは出来ないと感じもする。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…….。大河も一滴の雨から始まると言うが、山には大小無数の沢や地下水があり、溜まる水が支流を形成し、大きな河川に流れ込み、やがて海になる。地球上の水や河川は国境を易々と超えているスケールを持っている。流れ混む大海。情報の海。情報の河川。情報の支流。情報の沢。情報の地下水。Radio Garden というアプリを日頃使用している。バグダッド、タヒチ、アラスカ、ガザ、ホーチミン、ミャンマー……世界各地の地方都市から大都市まで、大小ラジオ局のホームページでリアルタイムで流されている放送に、地図上からアクセス出来る。無数にある局は英語での放送も多い一方で、基本的には現地語や植民地の言語での放送である。独特のイントネーションで話される言葉を意味がわからなくても聴いているだけで何か異国を訪ねた気分にもなる。その狭間にYouTube Facebook TikTok telegram などのお馴染みの単語、恐らくそれらに誘導する勧誘の声が聞こえる。あの国の言葉とこの国の言葉の響きや抑揚は似ている。インタビューの背後で熱帯の鳥がぎゃあぎゃあと鳴く。銃声と悲鳴が流される。何かを訴える悲痛なBGMと憤怒を纏ったエコーがかけられた声。ラジオなので楽曲が流れて来る。各国のヒット曲や地元でしか聴かれないマイナーであろう曲まで聴くことが出来る。普段自分が接している話題曲などごくごく資本主義下のグローバルメディアかエコーチェンバーや広告で称揚されたものでしかない。メロディや節、アレンジメントが西洋ヒットチャートとまるで違う曲群を聴くことが出来る。インターネットの技術によって、現地に行くこともなくデータとして届き再生される音は一期一会とも言えるし、これでさえ、世界中で奏でられる楽曲のごくごく一部でしかないだろう。小さな沢のせせらぎや支流の流れを聴きながら、それが日々注がれる大海の広さと深さを想像してみる。人間の認知能力は、時間的にも空間的にも制限を加えなければ、その情報のすべてを脳内で把握する事など不可能である。あまりに極小の自分の存在と、ネットにおけるデータの渦を原資として「再生」される音群。何を訴えているのか、歌っているのか、は理解出来ないそのスマフォで繋がった多くの声を、バラバラの単位に引き裂きながら統合、カスタマイズする人工的なインテリジェンス。今後、彼らは何を語り出すのか？広告。啜り泣く声。抑揚で唱えられる神に向けた聖なる声。愛を囁き合う声。

https://note.com/yukawashizuka/n/nc25f37f2798f

Tracklist

1.	seven broadcasts 1	8:13

2.	seven broadcasts 2	8:14

Credits

released February 28, 2025

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